元号が新しくなってから8年が経った。8年前に元号が変わるにあたり、たとえば官報で新しい元号やその読みが公告されたわけだが、民の世界でも様々な場面でそれに対応していかなければならなかった。
その一つにコンピュータで新しい元号を扱う、という必要がある。ひとつには「令和n年」を表示できるようにする、または入力を受け付け、演算できるようにする事が挙げられる。そして「令和」という文字列に加え、他の元号との整合性も踏まえてだろうか、「㋿」を組み文字として表示できる状態となった。
この「㋿」は国際標準としての文字コード体系であるUnicodeに、U+32FFというコードポイントが与えられ、OS・文字コード等に依存せず(理論上は)世界中全てのコンピュータで扱える1文字となった。
世界70億人以上の人類が扱う、途方もない数のコンピュータ(Unicodeを採用するものに限る)へ、日本という1億余りの国民のローカルな都合をインストールしているのだ。
日本の義務教育では、文字にいくつかの成り立ちがある事を教わる。それは形成文字や表意文字、そして漢字が崩されたひらがな・カタカナであり、自然発生的に広まった文字が広く使われていった、というナラティブを共有している。しかし「㋿」は限られた特定の人物が元号として決し、その事情を文字へと反映しているのだ。
一方で、特定の組織が新しい文字を決定するという例は皆無ではなく、中国では元素それぞれに漢字表記が与えられているが、新元素に対する漢字表記はウィキペディア日本語版の記載によると「大陸では、政府の全国科学技術名詞審定委員会が命名する。台湾では、国立編訳館が命名する」。
UnicodeにはEmojiが収録されているが、それらは元々日本の携帯キャリアが用意した文字達であった。UnicodeにUnicodeコンソーシアムという管理主体がある事は当然としても、文字それ自体にも、文字を増やし得る主体が居るのだ。
そうすると当然の欲求として、文字を何か増やしてみたいという感情が生まれる。先例によってその可能性を考える。
- 日本の新しい元号を決定する ── 日本に住んでいる以上、たとえば新しい元号が国民からの公募を行うなどの機会があるかもしれないが、先例によれば国文学等に詳しい専門家が選考に関わる。今から国文学を修めるのは困難と言わざるを得ない。
- 中華人民共和国・全国科学技術名詞審定委員会、または中華民国・国立編訳館へ転職する ── 国文学を修めるよりも僅かに現実的かもしれないが困難である。またこれから第8周期元素が発見されるという確約もない。
- 特定の閉域でのみ利用される文字体系を作成し、その閉域が十分に大きくなった時点で標準化基盤との接続の要が生じ、文字体系に応じたコードポイントを追加させる ── 今からLINEを超えるコミュニケーションツールと、LINEスタンプを超えるコミュニケーション手法を作るようなものである
絶望かに思えるが、実はUnicodeコンソーシアムは慈悲深くも一般人が新しい文字の提案を行える制度を設けていた。
「膨らんだ顔/歪んだ顔」のような新しい絵文字は、この制度への提案によって追加されている。形成文字が絵のような段階から漢字として成り立っていったように、人間同士のやり取りの為に必要な文字は追加されていくのだ。
絵文字の提案は毎年7月あたりを締め切りに受け付けているようで、文字を増やすプロセスに関われる可能性としては最も大きなものだと言えるだろう。貴重な機会としていつか、何か提案してみたい。