工夫というものは物事を進める上での費用対効果を大いに押し上げる。たとえば鉄道では都営地下鉄のホームドアにおいて、車両・ドア数・ドア位置の判別をQRコード式にすることで車両改修費を大幅に削減した事例がある。
QRコードは、安価に「情報」を提示することが出来るものとして大変有用で、スマートフォンが普及した現在は多くの人がQRコードの「ユーザー」として情報にアクセスすることが出来る。
そしてこの情報の提示の仕方というものは、工夫を凝らすことで色々な効用を生みだせる。一種のユーザーエクスペリエンスデザインであり、インターフェースの設計である。
同じく鉄道事業者において上手く使っているなと思うのが京王で、駅の設備、たとえばシャッターであるとかエレベーターを見ると、小さく控えめなQRコードを貼ってあるのを見かける。

特に説明なく貼ってあるもので、ユーザーつまり旅客に読み込んでもらうという目的ではない。以下は全て推測だが、駅の営業開始・終了に合わせて、何処の操作をするべきかというポイントにこれが貼ってあるのだと思う。流れを想像すると以下のようになる。
早朝、駅を営業開始する際には、タブレット端末か何かで「営業開始チェックリスト」を用い、漏れの無いように設備を起動させる。構内の電気を点けるであったり、改札機・自動券売機の電源を入れるといった作業である。
しかし、画面に表示される文字だけでは、読み飛ばしたり後回しにしてそのまま失念するリスクがある。それを防ぐためにはチェックリストにチェックボックスを付け、「操作を終えたらチェックする」というルールを設ける。
ただ、人間は作業に慣れてくると一々チェックをするのが怠くなる。毎朝やっている事なのに、何かを忘れる・抜けるという事はあり得ない、という自信もある。そうすると、ルールを無視して「ここからここまでやった/今からやる」とまとめてチェックを付けてしまう。ルールは破綻し、失念するリスクは消えない。
そこでこのQRコードである。実際に操作よをした後に、そこにあるQRコードをタブレット端末で読み取る…という仕組みを作ることで、まとめてチェックを付ける事が出来なくなる。
たいへん妙味があるのが設置場所で、たとえば上の写真であれば「取残2EV確認」とある。意味は分からないが「駅を閉める前に、エレベータに取り残している客が居ないか確認する」というようなチェック項目があるのだろう。そうすると、駅員はエレベータを見に行き、そこにあるQRコードを読み取らなければその項目を完了することが出来ない。しかも、このシールはエレベータのカゴの内部にあるので、現実にそこへ乗り込むことでしか読み取りが出来ないのである。そこに行くという事は、嫌でも「エレベータに取り残している客が居ないか確認」が出来る。
シャッターであれば、シャッターの外にQRコードが貼られ、嫌でも開扉を完了しなければQRコードを読み取れない。このように、「操作を完了しなければ情報、完了確認を得られない」という制約を、シールの位置という工夫だけで与えている。これは大変すごいことである。
最近、バスへ客を取り残したまま車庫で一晩過ごさせるという事案があったが、これも例えばバスの一番後ろにあるQRコードを読み取らなければ乗務終了できない、という仕組みを導入することで防げる可能性があったように思える。
金をかけてシステム化・自動化することは「綺麗」だが、現実にはこういった「工夫」がコスト増大を防ぎ、ものごとを運用している。
知的財産って大事だ