azusatokohaの日記

人生ラバーダッキング会場

「図書館カレー」という正解

国立国会図書館、という場所がある。納本制度によって、日本で出版される書籍の全てが納められる(べきである)、日本で唯一の図書館である。そんな特殊な館だけあって、蔵書数はたいへんに多い。当然ながら、ここ以上に日本語文献へのアクセス性が良い場所など無いのではないか、という位。私も時折使うが、本を探し、読み、未知の技術の世界の片鱗に触れるのは、めちゃくちゃ気持ちいいのだ。無駄な税金なぞ払いたくない、という人は、いちど行ってみればいい。これが公共サービスである。あるいは、贅を尽くした国営漫画喫茶と感じるだけかもしれないが。

さて、別に税金であるとか政治の話をしたいわけではなくて、国立国会図書館の設備の話をしたい。それも、図書館とは関係のない、食堂、売店、喫茶、理髪店の話である。国立国会図書館には、建物内にそれらの施設が設けられている。理髪店は職員御用達なのだろうか、とにかく一般的な図書館とはイメージが違う施設もあるわけだ。

その中でも、国立国会図書館食堂の「図書館カレー」が、私のお気に入りで、昼前からふらりと図書館を訪れ、資料請求を済ませたら、6階の食堂に立ち寄って「図書館カレー」を食べながら資料到着を待つ、なんてことになる。

「図書館カレー」は、別に他の食堂、あるいはメニューに比べて格段に美味しいとか、安いとか、そういう訳ではない。図書館の要素も希薄で、名前はべつに「6階カレー」でも「本カレー」でもいい。中身はと言うと、具の主張しない挽肉入りのカレーと、うす味の牛丼の具を、浅い四角皿(もはやトレーだ)に乗せ、互いが混ざらないよう、船を覆したような形の白飯が盛られる、という代物。白飯の両端には、竜骨を彩るように、福神漬と紅生姜が添えられる。茶・白・赤、それだけである。

牛丼とカレー。王道とも言えるこの二種を、ある意味無造作に盛った(無造作と言うばかりか、ご飯は専用の治具で船型に成形されるという、ちょっと手の込んだメニューなのだが)、それが「図書館カレー」。1卓6席のテーブルで、向かい合わせの人と目があったりするような食堂で食べるには、十分すぎるじゃあないか。

なぜこのメニューがそこまで気に入っているのかと言うと、そこに「国立国会図書館のニーズ」を感じるんだ。そこはあくまでも情報を手に入れる場所であって、脳のリソースは、情報を得、咀嚼する事に集中する、そんな人が唯、腹を満たしに使うのがこの食堂である。ならば、工夫を凝らした美味なメニューよりも、「図書館カレー」なのである。「カレーにするかな、牛丼にするかな」、そんな迷いは生じさせない。あるいは、「図書館と付いているくらいだからコレにするか」、と「図書館カレー」へと迎え入れる。無駄な思考リソースを搾取しない、国立国会図書館食堂のサービスがそこにあるのだ。

しかも、食事中も、情報中毒者を飽きさせないサービスがある。とは言っても何の変哲もない、旬の食材を紹介する、A5かA6程度のポップカードなのだが。国立国会図書館を訪れる人は、あくまで情報を求める活字中毒者である、という点を知り尽くしたもてなしがそこにある。

そんな、国立国会図書館の食堂で食べる「図書館カレー」が、とても丁度良いのだ。