azusatokohaの日記

人生ラバーダッキング会場

なつのロケット

あさりよしとお氏の著による「まんがサイエンス」という作品がある。科学をテーマとした学習漫画作品で、私にとっての「はたらく細胞」であり(5巻『インフルエンザ大戦争!』、9巻『傷は体の工事現場』ほか)、設計思想とは何かを教えてもらい(8巻『ロボットが来た道』)、宇宙への行き方を教えてくれた(2巻『ロケットの作り方おしえます』)。ある意味科学という分野におけるバイブルのような作品だ。最近Kindle版で読み直してみたけれども、やっぱり名作だあれは。

ということで、同作者による「なつのロケット」という作品も読んでみることにした。こちらもKindleで販売されていて、1巻完結の手を出しやすい作品だ。で、手を出してみた訳だけれども、「まんがサイエンス」ではないので科学描写と同じくらいストーリー描写にも手が込んでいる。でもってそれが、お前のような青臭い人間にはこれが刺さるんだよ、と言いたげなくらいに刺してくるから不思議だ。

私はアルバイトで塾講師のマネゴト(と言ってしまうのは些か無責任だけれども他人にものを教えられる人間性でないのでこれでいいのだ)をしていたので、その辺りも含めて問題なく刺さってしまったな。結局、本質しか勝たん人間だったので、テストの点数が上がりますか、というような話題には耳を塞いでいたし、本質へのアクセスを敷く、あるいは面白さに気付いてもらうということに重点を置いていた、まぁ下手くそな講師モドキだった。そういう人間にはあの先生はどこか刺さるのよ。

そして、作中で「三浦」が求める価値も本質だ。人間は移ろいゆき、いつか別れることもあるだろう。そういう人間関係上の承認よりも、決定的で覆しようのない成果こそがすべて。基礎研究とは研究である。たとえ他人の二番煎じ、あるいは世間の誰もが通ってきているような轍であっても、文献、伝聞、体験談以上に、自分で何を考え何を成し遂げたか、それこそが価値であり、形にならなかった成果の過程は、何も完成しなかったという結果しか残らない。

過程なんてなにの意味もないのさ
「努力した」なんてのは卑怯者の言い訳だ
だから俺は必要なことしかやらない
逆に必要な事なら何だってやってやる

なつのロケット(Kindle) - あさりよしとお p.70

あと「良いな」ってなるのは、コンポーネントの信頼性を上げて、それらが相互に問題なく作用するならば、それは製品として機能するっていうセオリーと取捨選択。要するに単体テスト結合テストなんだけれども、そういう思想と同時に、ストーリー上、完成までに一定の期限というものが設けられて、間に合わないと判断したなら枯れた旧版を使う判断がきちんとできる。そういう描写がある工学作品っていうのはそれだけで信頼しちゃうもんな。

ロケットは飛ぶようにできているんだ
飛ばなくなる要素を加えない限り絶対に成功する

なつのロケット(Kindle) - あさりよしとお p.79

技術的には無理なく可能です。ならばやらない理由は無いでしょう? この作品みたいな、科学をやりつつ刺さりめのストーリーを交えてくる作品は、気持ちの悪い本質オタクにブッ刺さってしまうのだな。そういう意味ではDr.STONEの感想文も書かなければいけない。コンポーネント、上位は下位にライドする。そうやって成功する要素だけを積み上げていけば、絶対に成功する。そういうものでしょう。